“悪い表現をやめて、日常性を大切に” 公開講座の様子をレポート! 後編

「ここで“戦隊モノのように長くシリーズが続いてほしい”という“欲”が出てきてしまった」と鷲尾さんは言います。結果的に、前作に倣った、保守的な作品作りとなり、他社作品に人気を奪われてしまいました。このとき、“これでプリキュアシリーズも終わりか。せめて最後に思いっきりやりたい”と、「あと1年だけやらせてほしい」と会社にお願いしたのだそう。

会場全体の様子。

その結果として誕生したのが、シリーズ第4作となる『Yes!プリキュア5』でした。これまで作中に登場するプリキュアは2人だけとしていたのを、思い切って5人に増やしたのがこの作品の特徴。歴代3作品のタイトルに見られるように、「“ふたり”というのを大切にしてきたにもかかわらず、プリキュアを増やしていいのか」と自己矛盾を抱えていたと鷲尾さんは話します。

ですが、この決断が功を奏し、『Yes!プリキュア5』はシリーズ第1,2作の人気を超えるほどの人気ぶり。この大きな決断をきっかけに、作品によって登場するプリキュアの人数が変動するようになり、ストーリー展開の幅も広がったことで、プリキュアシリーズは人気を取り戻しました。登場するプリキュアの人数の変化は歴代の劇場版ポスターを通して見ることができるとのこと。会場前方のスクリーンにポスターの画像が次々と写し出されると、聴講者からは懐かしむ声や、登場キャラクターの多さに笑いの混じった驚きの声など、大きな歓声が上がりました。

第1作を製作していたとき、西尾監督に「どうしたら子供は観てくれるのか?」と相談した際に、西尾監督は「子供は流れていれば無条件に観ちゃう。だから変なものは作れない」と答えたそう。「子供の頃に観たものは大人になっても自然と覚えているもの。だからこそ、子供に悪い影響を与えないように、悪い表現はやめた」と鷲尾さんは言います。

アクションシーンの派手な描き方ひとつ取っても、主人公の女の子らが頭や体を殴られる表現は避け、その代わりに“攻撃されたら必ずガードして、吹き飛ばされた先にある壁が大きく崩れる”という表現を用いることで、派手さを演出しているとのこと。また、「日常性も大切にしている」と続けます。例えば、主人公の部屋に母親が入ってくるときにきちんとドアをノックしてから入るなど、「こうした丁寧な見せ方、熱量が視聴者に伝わったからこそ、今の人気があるのかもしれない」と鷲尾さんは語りました。

講座の最後には、プリキュアシリーズ15周年を記念したPVと今秋に公開される劇場最新作の予告映像が上映され、聴講者は大きな拍手を送りました。

講座後の質疑応答の時間では、プリキュアシリーズを子供の頃から観てきたという聴講者から次々と手が挙がりました。「劇場版では主人公たちが喧嘩をするシーンがあったが、そのような表現は避けているのでは?」や「第1,2作で主人公の衣装の色を白黒にした理由とは?」など、ファンならではの質問も飛び出し、鷲尾さんも驚いた様子でした。聴講者からの質問が尽きない中、三上義一学部長の挨拶をもって公開講座は終了しました。

質疑応答の様子。

アニメ製作現場の最前線を知る鷲尾さんのお話には、児童向けアニメに限らず、さまざまなコンテンツの企画・開発における大事なヒントが示されていて、どの聴講者にとってもとても有意義な公開講座となったことでしょう。今後もメディア学部では、メディアの可能性を追求し、今回のような公開講座を通してメディアの楽しさを発信していきます。

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