メディア学科の授業『映像表現特講』から、一部を書き起こして掲載します。
※ 講義は新型コロナウイルス感染防止のため、Zoomを用いた遠隔授業として実施されました。感染防止の対策をしたスタジオで収録を行っています。

2020年10月8日 ゲスト講師:杉原永純氏

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西尾 今回の講師の先生は杉原永純先生です。キュレータとして山口情報芸術センター、あいちトリエンナーレなどのアートイベントのお仕事をされています。
馬場先生と杉原先生とで、対談形式でやっていきたいと思います。

馬場 よろしくおねがいします。杉原先生と僕とは、大学院の同級生です。修士から博士課程まで一緒でした。独特な、とても面白い仕事をされています。皆さんにとっても興味深いと思いますし、僕もお話をうかがうのを楽しみにしていました。早速自己紹介をお願いします。

杉原 自分が大きくかかわってきたのは映画と呼ばれる作品と映像作品です。いろいろあるけれど、アートイベントにかかわるものが多い。そういう実例をお話ししようと思います。こういう風に自分の仕事をまとめたのは今回が初めてなので、わかりにくかったら適宜質問してください。

まず自己紹介ですが、東京芸術大学の美術学部芸術学科というところにいました。学部を卒業して、そのまま芸大の映像研究科の映画専攻というところに行きました。そのなかの、今はプロデュース領域と呼ばれているところの修士課程に2年間いて、続けて博士後期課程にいきました。
きちんと仕事をはじめた所は、渋谷にあったミニシアター(オーディトリウム渋谷)。そのディレクターとして番組編成の仕事をしていました。
その後に山口に5年居住し、メディアアートセンターである山口情報芸術センター[YCAM]に勤めました。映画だけでなくていろんなアート作品を取り扱うところで、キュレーターをやりました。
昨年は国際現代芸術祭・あいちトリエンナーレ2019、これはいろんなアート作品を取り扱うところですが、映像プログラムのキュレーターをやっておりました。
その年から東京に戻ってきて、今はIncline(インクライン)という会社に所属しプロデューサーの仕事をしています。インクラインの宣伝を少しすると、この夏ベネチア国際映画祭で監督賞を獲った『スパイの妻』という映画の企画プロデュースをしています(自分は製作には関わっていません)。

何を紹介しようかと思って、これまでやってきた仕事を一通り書き出してみました。
大きく分けて3つに分かれています。映画作品として完成させたもの、インスタレーションや展示作品として完成させたもの、上映プログラムを組んだもの、という仕事に分かれるかなと思います。今これから実際に見られるものは、サウンド・アーティストの森永泰弘さんの『POLLINATORS』、これはさいたま国際芸術祭2020で4月にやる予定だったのですが、コロナで延期されてこの10月から大宮の会場で展示されます。

それ以外にもいろいろあるのですが。自分の仕事のボリュームでいうと、いろんな会場、いろんな映画館で上映を組むという仕事が半分くらい。それを2011年からずっと続けています。そういったことを続けているとまたいろんなことあって、インドネシアの映画祭から声がかかって、日本映画を紹介するプログラムをやったりしました。同じような流れで、国際交流基金が主催しているワークショップで、日本と東南アジアの映画のプログラマーという人たちと一緒にやった企画がありました。その時は六本木の美術館とタイで上映会をしました。
そういったことを踏まえてあいちトリエンナーレの映像プログラムをやりました。並行していろんなプロデュースもあるので、ひとことで説明しづらいのですが。まずはキュレーションしてきた仕事の中の、インスタレーションや展示を紹介できればなと思います。

ここ数年アジアでの仕事が多いのですが、展示作品としてこんなもの作りましたというわかりやすい映像がこれです。『潜行一千里』という作品です。これは、2016年製作の『バンコクナイツ』という映画を作っていた映像制作集団・空族(くぞく)とスタジオ石とで一緒につくった展示作品。彼らがタイとラオスに長期間滞在して映画を作っていたのですけれど、その彼らがたどった道のりを再度撮影・構成して展示作品にしました。映画の中でもその道のりをたどるストーリーがベースにあり、彼らがリサーチしたいろんな素材、人、場所があるので、それらの要素をもう少しパノラミックに映画のスクリーンをはみ出る場所で何かできないか、というところからこの企画をやりました。

『潜行一千里』 空族+スタジオ石+YCAM(ycam.jp)

今映っているのは、これはタイとラオスの国境沿い。ここからさらに北上していくとラオスに入っていきます。彼らの映画を作っていくやり方はかなり特殊で、その土地に長く滞在し、地元の人たちと交流しながら映画を作っています。『潜行一千里』ではそこに住む人たち、習俗、風俗を映画じゃない形で表現しようとしたものです。

4つの大きな16対9のスクリーンと、もう一つ大きなスクリーン、5スクリーンで囲まれるような映像の展示です。あたかも旅行しているような、一緒に旅をしているような感覚を映像で再現しようとしました。

次は、具体的にいろいろ制作過程をお話しできればと思い、これは映画で2018年に完成した『ワイルドツアー』という作品です。自分が山口のYCAMにいるときに作った作品で監督は三宅唱さんという人です。三宅さんに山口に長期滞在してもらい、地元の中高生をキャスティングして、山口のロケーションで撮影する企画でした。後ほど説明しますが、これがYCAM。ここで行っていたワークショップをきっかけにして中高生たちにリアルに出演してもらいました。

映画『ワイルドツアー』オフィシャルサイト (ycam.jp)

ちょっとややこしいんですが、これと同時期に完全に並行して作っていた展示作品があって、『ワールドツアー』というタイトルにしました。これはYCAMのスタッフと三宅さんとが一緒に作りました。劇映画ではなく、三宅さんはiPhoneの動画機能だけを使用してビデオダイアリーを撮り続けていて、『無言日記』というシリーズを作っていた。それを山口に滞在中も続けてみよう、三宅さん一人ではなくて、普段映像を作ることのないYCAMの職員などみんなで撮りためてみよう、それを編集しなおし、囲まれるような展示にしました。

『ワールドツアー』三宅唱+YCAM新作インスタレーション展 (ycam.jp)

ちなみに、この記録映像に登場する方はYCAMの顧問、自分がいたときは館長。御年80を超えていますけれど、どういった作品でも必ず感想をくれる。非常に柔軟な考えの方です。

馬場 中央にぶら下がっているのは何ですか。

杉原 あれはガラス板なんですよ。展示空間には映像が6面あります。60分のループ再生で映像が流れるのですが、そのガラス越しに反射する効果を作ろうとした。自分が反射する、もしくは映像が反射する、というのをガラス越しに感じてほしい、そういった意図でした。映っているのは山口だったり、誰かが出張したり旅行した旅先の風景などです。日常的な風景なんだけど、撮りためて一本にまとめていくと、どこかに映画的な要素が出てくるのではないか。

展示の記録映像にも映画の方の『ワイルドツアー』に出てくれた子たちに出演してもらった。この展示空間はシンプルに見えて複雑ことをやっているのですが、説明は端折ります。

この二つの作品について少しお話ししようと思います。『ワイルドツアー』と『ワールドツアー』ができるまでですね。自分が2014年にYCAMで映画担当になって、映画を作る企画を立て始めました。しかしYCAMは別に映画を作る場所ではありません。メディアアートセンターでどんな映画を作るべきか、から、考えないといけないな、と思っていました。だから本来の思いつきやコンセプトを、どういう風に表現し、どういう形で作品を作ればいいのだろうと常に考えていました。ゼロから、どういう風に今考えていることとかを映像に撮って作品にするのがよいのか。一般的な映画のプロデューサーとかテレビ番組のプロデューサーとは違うやり方になっていると思います。

2014年に引っ越してから5年むこうにいるつもりでした。その間、時間を使って一緒に考えてくれるアーティストを選びたいと思いました。加えて、映画だけではなくていろんなアート作品を作っていたり、アートの領域にも理解があったりする人を条件として考えました。

そこでお声掛けしたのが三宅唱さんという映画監督。映画だと最近だと『きみの鳥はうたえる』『THE COCKPIT』などがあります。ドキュメンタリーも撮っていれば劇映画でしっかりとした作品もあり、評価が高い映画監督です。それら以外でも、ネットフリックスで配信している『呪怨 呪いの家』。つい最近では、星野源さんのミュージックビデオ『折り合い』。自粛期間中に星野さんが一曲作られて、突然ミュージックビデオのオファーが来た、ということでした。あとGEZANなど、MVの数はかなり多い映画作家です。
それ以外に、いわゆる商業的な映像作品とは別の角度で、個人的なライフワークとしてやっているのが『無言日記』というシリーズです。先ほどの『ワールドツアー』の元になるものです。
2014年からウェブマガジンで連載しています。どういう縛りがあるかというと、iPhoneの動画機能だけで撮りためていく。それを一か月ごとに編集してまとめ、YouTubeで発表していました。

三宅さんとの繋がりは、自分が渋谷のミニシアターで仕事していたときです。初公開の映画『Playback』を劇場公開することがあり、そこから知り合いました。映画だけじゃなくて音楽、特にヒップホップにすごく詳しい。もちろん才能豊かな方なので、同時に他のジャンルにも柔軟に対応できるんじゃないかと思いました。
YCAMは山口にあるので、なかなか気軽に行ける場所ではない。作るとなったら本腰を据えてやらなければならない。三宅さんは売れっ子の映画監督なので新作の映画の規模も大きくなってきますし、どんどんオファーが来る。チャレンジングな、長い期間をかける仕事は2015~16年くらいが最後になるのではと思い、このタイミングでしかできないと思っていました。相談の末、一緒にやりましょうとなりました。

YCAMはこういう施設です。山口市はよくある地方都市ですが、いきなりこういった建物がでてきます。メディアアートセンターです。美術館とは少し違います。すでに完成している作品を展示するといったことができなくはないのですが、むしろ作品を一から作る場所。そのためのスタッフや機材やスタジオがある場所です。年間何本かメディアアート作品や舞台作品を作っており、自分が行ってからは映画を作りました。

山口情報芸術センター[YCAM](https://www.ycam.jp/)

馬場 結構でかい建物なんですよね。何階建てなんですか?

杉原 建物のお客さんが入れるところは1階と2階。波打っているところは倉庫とかバックヤード。いっぱい詰まっています。

馬場 小学校の校舎くらいの大きさ?

杉原 もっと大きい。半分が市立央図書館。図書館になっている部分とYCAMとなっている部分とが一緒になっています。普段は館内には何も作品展示はないです。スタジオが大きく3つあるのでぜいたくに使うことができました。歩いて5分くらいの場所にはレジデンス(滞在するための一軒家)があるので、アーティストが長期滞在できます。こういった条件があったので、東京で映画を作るのとはちがう発想で、アーティストを呼んでここでしかできないことを一緒に考えてみよう、ということが試せる場所でした。
YCAMでつくる、三宅さんがわざわざ山口に来て、長い間時間をかけてやる。そうなると、双方にメリットがあり、チャレンジになることを目標として持っておきたいと思っていました。ふだんインディペンデントで映画をつくるときは、自分はメジャーなスタジオやテレビ局、映像制作会社にいるわけではないので、非常に限られた予算、限られたスケジュールのなかで作る。基本的には東京近郊でロケーションして撮影するということが大きな要素としてあります。
YCAMで考えると、充実した施設・設備があり、多彩なスタッフがいます。映像担当、照明担当、音響担当、そしてメディアアートをやっているのでプログラミングは基本的には皆さん誰でもできる。という環境でそこに映画監督を連れて行ったらどういうことができるか。山口は、撮影のためのロケーションがすごく豊かな場所なので海や山ともにさっきの場所から車で30分かからないところにいい場所があります。これも東京近郊で探すとなると結構大変で、朝出発して行ける範囲で何とかいい場所を探す。といった縛りがありますがそういったことからも解放され、予算・スケジュールの制限からも距離をとれる。
レジデンスに滞在することで長期間そこで生活し、東京とは違う時間軸でいろんなことを組むことができます。三宅さんには全く何かゼロから企画を考えてくれというのは難しいので、ちょくちょくレジデンスに滞在してもらいながら、時折開催していたYCAMのワークショップやイベントを体験してもらいました。
リサーチに時間を取り、それだけで2~3年くらいは断続的にやりました。東京からプロの俳優さんを呼ぶということも考えたけれど、結局は地元の中高生に出てもらうことになりました。そういった企画の方向性を徐々に固めていきました。

YCAMのスタッフにとっても映画製作はチャレンジングなことでした。これまでに映画以外のいろんな作品を作ってきたけれど、いざ映画、となると少し構えられたんですね。映画って大変なんじゃないですかと。意外でしたが。
三宅さんもYCAMに関しては初歩から学んでいけるし、スタッフにとっても映画作りをゼロから考えていける。作家とスタッフが対等な関係でコミュニケーションが取れると思いました。映画制作は基本的には監督の意見がピラミッド型に、上から下へと指示が伝わる。ああしてください、こうしてくださいという指示が具体化されていく。三宅さんが制作までにずいぶん時間を取ってくれたこともあり、お互いキャッチボールしながら、ここはこうしたほうがいいんじゃないか、と徐々に双方から練り上げられてゆくという関係を作ることができた。そのきっかけとしてYCAMのスタッフには映画制作のワークショップを体験してもらった。実際スタッフだけで、映画作りを3日間集中してやってもらいました。

時間をかけていたものの、何か方針を定めていかなければ形になりません。次に、三宅さんがもっているもの、YCAM がもっているものそれぞれのリソースを見直す作業を自分としては意識しました。

三宅さんはこれまで映画のワークショップを小学生、大学生、社会人にはやったことがありました。三宅さんと話すうち、次やるなら中高生を対象にしたい、と早い段階で言っていました。なぜかというと、かれらは大人でもなく子どもでもない、その中間の存在であると。通常、映画制作ワークショップでは、脚本を考え、演出、撮影するということをやります。小学生だと、言ってしまえば何か撮れちゃえばOK。映画制作、撮影の雰囲気が出ていれば彼らとしては満足してしまう。それでも時々面白いものができたりするので彼らのクリエイティビティはすごいと思うけれど。

社会人と大学生は基本的には同じ。大学生はほとんど大人です。たとえばグループワークをしたときに大人として初対面の人とちゃんとコミュニケーションが取れる。その中で自分がやるべき役割を見つけて果たしてゆくことが当然できる。その中間にいるのが中高生で、かれらは子どもなんだけどすごく自我も強いし、社会に触れる時期でもある。こういう子たちを主人公にしたら面白いのではないか。ちなみにYCAMは有料の美術館ではないので、誰でも無料で入れます。敷地の半分は図書館なので地元の中高生の子たちがとにかくよく館内にいるんです。その風景を見て、三宅さんは、やっぱり中高生が主人公だといいよね、と。

YCAMでは様々なワークショップを日々やっています。子ども向けであったり社会人向けであったり。その中で三宅さんが気に入ったのが、「森のDNA図鑑」というワークショップでした。どういうものかというと、いろんな場所に植物が生えている、そこに行って、植物を採取し、つぶしてDNAを抽出する。その名前を特定する。YCAMの中にバイオリサーチ・ラボというのがあって、そこでできます。採取した場所は、360度カメラで周囲の環境を含めて撮っておく。いろんな植生があるというのを最終的にはウェブ上でマッピングするというプロジェクトです。

森のDNA図鑑(ycam.jp)

これを映画と組み合わせようと。中高生に森のDNA図鑑をやってもらったらきっと青春映画になる、というすごくシンプルな形に落とし込みました。参加する中高生同士の友情が発生するし、アシスタント、こうしたワークショップにはファシリテーターを入れるのですが、大体大学生だったり、中高生にとっては年上の子たちです。ファシリテーターに大学生の女の子をいれよう、そうしたらそこに恋愛感情に近いものが生まれるのではないか。これが物語の最初の段階で考えたことです。

中高生を対象とした映画制作ワークショップを経てキャスティングをしました。ふつうは映画を作るときに、オーディションをやる、出たい子募集というのをよくやります。『ワールドツアー』では、ただ出たいだけではなくて、一緒に映画作りに参加したい子を集めました。
映画作りはいいこと悪いこといろいろあります。残酷なまでにその人の人間性が見えてきてしまう。そこを経てこれから一緒に作るんだよというモチベーションを高めていく。最初はこの中から何人か選んで一緒に作れればいいなと思っていたけれど、結局ワークショップに来てくれた子から希望者全員に出てもらうことになりました。
『ワイルドツアー』についてはこれくらいで。

展示作品の『ワールドツアー』を作った流れです。リサーチのために三宅さんには2015年から断続的に滞在してもらっていました。本腰を入れて作り始めたのは2017年の夏から。ビデオダイアリーを撮りためていきましょうということになりました。YCAMにとって映画制作はなじみがないものだったので特別に扱われるのだけれど、ビデオダイアリーを撮ってみることから始めて、スタッフの皆さんにももっと身近に感じさせてゆきたいという意図もありました。
まったく映画作りと関係がない、普段経理やったり総務やったり、といった事務方の人たちにもビデオダイアリーを撮ってくれませんか、と持ち掛けました。皆さん結構楽しんでやってくれました。三宅さんが狙っていたのは、日常のあらゆる瞬間に映画的な瞬間があるのではということ。映画を作るのとは角度が違う話だけれど、展示作品として完成させる作品にも映画の魅力を残したい。手持ちのスマートフォンの動画機能を使って、映画を作ることのない人たちが日々過ごしていてアッと思った瞬間を動画で記録してもらいました。膨大な素材の量になったけれど、それを先ほどお見せした6面のインスタレーションに構成しました。
『ワールドツアー』もこのあたりで。

自分がやっていることを言葉で整理するのはなかなか難しいのですが、プロデュースとよばれることとキュレーションと呼ばれることを両方やっています。
プロデュースは、皆さん聞かれることが多いと思いますが、ざっくりいうと新しく作品を ゼロから・一から作る。キュレーターといわれる人はたくさんいますが、映像・映画に関してこれをやっている人は少ない。上映のプログラムを作ることもキュレーションと呼ばれるし、『ワールドツアー』をつくるようなこともキュレーションと呼ばれたりします。
自分の関わっている仕事はこの2つを行き来することが多いです。上映プログラムを作ることと、作品をつくることが割と並行している。という形で10年たちました。

(2)に続く

(反訳協力:高橋裕美)