アニメーション産業、コンテンツツーリズムなどを専門とする鷲谷先生に、担当予定の授業やご自身の研究内容等についてお話を伺いました。

どんな授業を担当されますか?

エンターテインメント論

日本のエンターテインメント産業の特徴を学びます。

人気が出たマンガが原作となって、アニメ化や実写化など表現をリッチにしながら、展開される様子について論じます。日本映画のヒット作には、マンガが原作となっているものが多いですよね。あらゆる分野で面白い原作がそろっている日本のマンガは、日本のエンターテインメント産業の大きな強みです。

また、映画では、1本製作するのに多くの人手と費用がかかるため、公開の何年も前から長期スパンで計画を考える必要があります。ヒットする映画の製作者たちは社会全体の動向を見て将来を予測して企画を考えます。こうした点を踏まえ、授業では社会的事象と企画の関連性を見ていきます。毎回授業で映画のランキングや予告編を見て、国内外の映画の表現の最前線を学び、1〜2年前に立てられた企画と今のニュースをもとに、その関連性を類推します。

この分野には正解はありません。正解がある高校との学びの違いを感じながら授業を受けてほしいと思います。

アニメーション制作演習

この演習はI、Ⅱ、Ⅲの3つに分けて開講します。

Iでは、プリミティブ※1 を使って3DCGムービーを作ります。「のこし」※2 などのアニメーションの基本技法や、「予備動作」※3 などの人間の動作をアニメーションで再現するための基本技術を学びます。

Ⅱでは、短い物語を企画します。その中で登場するオリジナルキャラクターの設定を考え、3DCGモデルを作ります。画面レイアウトやカメラワークの知識を身につけ、イメージボードで表現できるようになることを目指します。

Ⅲでは、ウラジーミル・プロップの物語理論や3幕構成のハリウッドメソッドなどを学んだ上で、長編映画を企画します。最終的には、動画コンテやプリヴィズ※4 といわれる手法で予告編を作ります。

アニメーションの基本技術を知ることは、作品を分析する視点を養うことにつながります。例えば、アニメーション作品を観たときに、「あ、今のところは“のこし”が使われているな」というように気づけるようになったり、作品に込められた制作者の意図をより深く理解することができるようになったりします。この気づきは受け手から作り手へと成長するのに役立ちます。お話を企画するのが好きな人やアニメーションに興味がある人にオススメです。

※1 プリミティブ:直方体や球などの基本的な図形のこと。
※2 のこし:髪のなびきなどモノの先端部分の遅れの表現のこと。
※3 予備動作:ジャンプする際に一瞬腰を沈めるなど、動作を開始する直前に逆の動作をする表現のこと。
※4 プリヴィズ:プリ・ヴィジュアライゼーションの略。検討用に作られる低画質のコンピュータグラフィックス映像のこと。

普段どんな研究を行っていますか?

アニメーション・エンターテインメント産業が私の研究領域ですね。

もともとは、恥ずかしいんですけれど、小説家やゲームデザイナーになりたかったんです。高校時代は理系でプログラミングに夢中だったんですが、大学は一番ヒマそうだからという理由で文学部に進みました。とにかく、親元を離れて好きなことをする時間が欲しかったんです。大学時代は、今で言う、厨二病のヒキヲタで、小説とマンガを読んでゲームばかりやってました。ゲーム雑誌への投稿をきっかけに、ライターや編集者、ゲーム企画の仕事を始めました。

単位そっちのけで、朝から晩までゲームの仕事に没頭していたのですが、友人たちがみんな大学を卒業して就職したとき、ハタと我に返り、大学に戻ることにしました。ずっと取り組んでいた企画が発売中止になったり、〆切を守れず仕事に穴を空けてしまったりといったことも重なった失意のタイミングでした。

しばらくぶりに戻った大学は新鮮でした。大人に交じって働いた経験から「学ぶ意味」もわかりモチベーションが上がりました。そして、初めて勉強が面白い、授業が楽しいと思いましたね。また、誰も知っている人がいない教室の中の唯一の知り合いが、教壇に立っている先生という状態で、それまで何度も落としていた講義もすんなりと理解できましたから。

友人たちからだいぶ遅れて卒業した後は大学の出版部門の編集者になりました。大学が好きになっちゃったんですね。大学のそばのアパートに引っ越してしまったぐらいです。大学の先生と一緒に論文集や学術書を編集する仕事を通じて、研究のイロハを学ばせてもらったという感じです。

そうした大学の先生たちとの交流の中から、「日本のコンピュータグラフィックスの父」とも言われる著名な先生を紹介されました。その先生から、海外製の3DCGソフトの翻訳とマニュアルの制作を依頼されたんです。その作業が終わると、その3DCGソフトのセールスのためのデモンストレーションを依頼され、売れると今度は買った人に使い方の指導を依頼され…と気づけば、いつの間にか大学院にも行って、今のように大学でCG技術やアニメーション、エンターテインメント産業について教える立場になっていました。大学時代のヒキヲタの私を知っている友人たちはみんなビックリしていると思います。

また、その先生からの手引きで「東映アニメーション研究所」という人材育成機関で勤めることにもなりました。その研究所の出身者はアニメーション産業のさまざまなところで活躍しています。そうした人たちがより多くの場で活躍してほしいと思い、デジタル技術とネットワークを活用したアニメーション製作の効率化もテーマとしてあります。

これらのテーマから派生して、今はコンテンツを活用した地域振興(コンテンツツーリズムや聖地巡礼)についても研究を進めています。具体的には、マンガの聖地と呼ばれる「トキワ荘」周辺のフィールドワークを行っています。

※トキワ荘:手塚治虫や藤子不二雄A、藤子・F・不二雄、石ノ森章太郎、赤塚不二夫など、マンガの新たな時代を切り拓いた漫画家たちが青春時代・下積み時代を過ごしたアパートの名称。現在の豊島区南長崎にありましたが、昭和57年に解体されました(2020年に復元予定)。「トキワ荘」があったことから、今も南長崎周辺はマンガの聖地とされています。

メディア実践演習の鷲谷クラスではどんなことをしますか?

映像の製作をはじめ、イベントの運営などありとあらゆるプロジェクトに欠かせない、プロジェクトマネジメントの技法をさまざまな活動を通して学びます。クラス活動の中で、一人一人に何らかのプロジェクトマネージャーを担当してもらいます。プロジェクトマネージャーとは、プロジェクトに関わるヒト・モノ・カネ…すべてを管理する役目です。スケジュールどおりに成果を出せるかだけでなく、チームのみんながまとまって楽しく参加できるかどうかも、プロジェクトマネージャーの力量次第です。

現在の社会学部メディア表現学科の学生の例だと、「トキワ荘」周辺地域で開催される「夢の虹」というイベントの企画・運営を行っています。このイベントは、地域住民などから集めた“夢”(七色の紙に夢を書いてもらったもの)を貼り合わせ、「トキワ荘通り」という通りに並べてモザイクアートの虹を描くというものです。

「夢の虹」の様子。

この記事を読んでいるアナタへのメッセージ

五円玉を見てみてください。水と稲穂、歯車が描かれていますね。日本は、永らく「豊葦原瑞穂(とよあしはらのみずほ)の国」と呼ばれる「農業国」でした。昭和の高度経済成長期を経て1980年代頃からは「ものづくりの国」と呼ばれる「工業国」になりました。しかし今はどうでしょう。より人件費の安い海外へ農業も工業も流出し、日本国内はぽっかりと空洞化していますよね。

そんな状況で、最後まで日本に残るのは「メディア産業」です。日本で生まれ育ち、日本語を母語とする人が、その感性を最大限活かせる仕事がメディア産業だと思うんです。

「日本のショーケース」と言われる秋葉原で扱われている商品の移り変わりを見てみてください。戦前は繊維、戦後はラジオ、テレビ、電化製品、オーディオ・ビジュアル製品、パソコン、ケータイが順々に扱われてきました。今、秋葉原で大きく取り扱われているのは、マンガやアニメなどのメディアに関するものごとです。フィギュアやカプセルトイのお店だけでなく、メイドカフェやAKB劇場なんかもありますね。秋葉原を「聖地」と考える人々が世界中から観光に訪れている状態です。

メディア学部はメディア産業について学べる、未来のある場所です。ぜひメディア学を勉強しに来てもらえればと思います。

プロフィール

氏名 鷲谷 正史(WASHIYA Masashi)
職位/担当分野 准教授/メディアと産業・消費分野
専門 アニメーション、エンターテインメント産業、3DCG、コンテンツツーリズム
担当予定授業
  • エンターテインメント論
  • エンターテインメント・プロデュース特講
  • アニメーション制作演習I/Ⅱ/Ⅲ
  • フレッシュマンセミナー
  • ベーシックセミナー
  • メディア基礎演習A/B
  • メディア実践演習1/2/3/4
所属学会
  • アニメーション学会
  • コンテンツツーリズム学会
研究内容 コンテンツ産業の分析、デジタルエンターテインメントビジネスのプロデュース
主な著書・論文
  • 『プロデューサー・カリキュラム―コンテンツ・プロデュース機能の基盤強化に関する調査研究』、C&R総研、2004年(共著)
  • 『エンターテインメントと法律』、商事法務、2005年(共著)
    …ほか