2018年6月19日、目白大学新宿キャンパス研心館にて、第21回文化庁メディア芸術祭受賞作品の関連イベントとしてトークイベント「テクノロジーが拡張する未来」が開催されました。

トークイベント「テクノロジーが拡張する未来」の様子をレポート!

文化庁メディア芸術祭、本学社会学部メディア表現学科、メディア学部メディア学科の共催で行われた本イベントでは、エンターテインメント部門の受賞作品や審査委員会推薦作品が紹介され、一般来場者含む100名程が、最先端のVR技術などを用いた作品の紹介に耳を傾けました。


一般に仮想現実と訳されるVR(Virtual Realityの省略形)は、コンピュータ・グラフィックスなどを用いて現実にはない空間を現前させたものです。映像を映し出すVRゴーグルなどの機器を装着することで、現実空間の疑似体験が可能になります。視覚・聴覚・触覚などの五感を動員すれば、臨場感は一気に高まります。

本イベントでは、受賞作家、審査委員推薦作品の選出作家である深澤研氏、桟義雄氏、佐々木智也氏、さらには本学専任講師の馬場一幸が登壇し、受賞作品紹介・研究発表が行われました。本学の西尾典洋准教授が総合司会を担当し、昨年に引き続き、芸術祭の審査委員でもある東京工芸大学教授遠藤雅伸先生がモデレーターを務められました。

最初に、深澤研氏のエンターテインメント部門審査委員会推薦作品“Magic-Reality: Corridor”が紹介されました。本作品はVRホラーアトラクションゲームです。廃墟の洋館を歩き、実際に手にしているランタンを用いてクリーチャーやゴーストを退治しながらストーリーを進めます。一般的なVRゲームは360度見渡せるのみですが、本作品は、実際に歩かなければストーリーが展開されないという点が特徴です。また、ゲームプレイ環境の壁や床などをクロマキーにし、カメラ付きのVRゴーグルを使用することで、自身の腕や同時プレイしている人物もゲーム内で認識可能になりました。自らが異世界に入り込んでいるという没入感を大事にしたとおっしゃっていました。

次に、桟義雄氏のエンターテインメント部門審査委員会推薦作品“VR Real Data Baseball”が紹介されました。本作品では、独自にセンサーを組み込んだミットとバットを装着・操作することで、プレイヤーは、データから再現したプロの投球をキャッチャー、バッターとして体験できます。近年、日本のプロ野球でも、球場設置の専用のカメラ映像をもとに、投球の各種情報を自動的に取得しデータ化していますが、そのことから着想したそうです。「あくまでリアリティにこだわって制作しているが、キャッチしたら煙が出る魔球も作ってみた」と魔球の映像を見せ、会場を沸かせました。「(新聞で)読む→(ラジオで)聴く→(テレビで)観る」と変化してきた野球の楽しみ方を「野球体験そのもの」へとアップデートすることが目標であり、今後は、100万人がプロの投球をリアルタイムに挑戦できるようにしたい、と展望が語られました。

次に、佐々木智也氏のエンターテインメント部門新人賞受賞“MetaLimbs”が紹介されました。もともとロボットが好きだった佐々木氏は、ロボコン出場の経験やハリウッド映画から、腕がもう一本ほしいという着想に至り、第3の腕となる本作品を制作したそうです。作品名である“MetaLimbs”は、「Metamorphosis(変形・変身)」と「Limbs(四肢)」の頭文字から取ったもので、「四肢を変形させる」という意味を込めたとのことでした。既存のロボットアームは「身体に装着したロボットが動いてくれる」というものでしたが、本作品では、「自身が動かしている義手」という発想に基づき、足先にマーカーを装着して第3の腕を操作します。筋肉の電気信号を使って義手を動かすなどの試行錯誤の末に行き着いた解決策だそうです。

最後に、開催校教員の馬場一幸からは、退蔵された小型フィルムの再生についての研究発表がありました。地域の日常を映した何でもない映像も、災害による町の損壊などで、貴重な資料に変化する可能性があります。一方で、劣化したフィルムは、映写の際の破損や保管の都合により廃棄されてしまうことがあります。フィルムのデジタル化でこれらの問題は防げますが、従来はかなりの費用がかかりました。フィルムを破損することなく安全に簡易にデジタル化できる機器の開発に成功した馬場は、その機器でデジタル化した映像の一部を上映し、退蔵フィルムの重要さを来場者に再認識させました。

作品紹介後、さまざまなトークが展開されましたが、遠藤先生の「現在のVRは視覚・聴覚に頼る傾向が強いのですが、今後は、触覚や嗅覚などの他の五感も用い、新しい世界が切り開かれることに期待したい」という言葉が本イベントの締めくくりになりました。

全く違う異世界に入り込むことができる、限りなく現実に近い体験ができる、現実の上で身体の拡張が体験できるといった、まったく別のコンセプトに基づく作品の紹介、開発者の貴重なトークを聴講することができました。今後のテクノロジーのさまざまな可能性を感じさせてくれるイベントとなりました。

(文責:メディア学科助手 溝口紗耶)